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Interview

DOING MORE WITH LESS

Recap of a one-hour conversation with Nur Abbas, design director at Goldwin 0 by Gert Jonkers

(Tuesday, December 17, 2024)

ゲルト: ファストライフ(効率やスピードを最優先する生活)を送っていますか?
ヌー: ファストライフ?自分の仕事、取り組んでいるさまざまなプロジェクト、家族のこと、と慌ただしくて、1日に時間がいくらあっても足りないように感じることはよくある。けれど、ポートランドには、確かに独自のゆったりとしたペースがある。絶えず多くのコトを生み出し続けなければならない大都市、という感じではないんです。

ゲルト: 通勤手段は?徒歩?それとも自転車ですか?
ヌー: 丘の上に住んでいるので、特に運動不足と感じるときは自転車で通勤できます。でも、ここのほとんどの人がそうであるように、普段は車で通勤しています。典型的な北米の通勤スタイルですね。

ゲルト: アウトドアアクティビティを楽しむ時間はありますか?
ヌー: 私たちのそばには、つねに木々や山々、大自然があります。ポートランドでは、海にも山にも、行きたければ車で1時間半で行ける。あらゆる自然にとてもアクセスしやすく、美しくワイルドで荒々しい。『グーニーズ』は観ましたか?

ゲルト: まだです。
ヌー: すべてオレゴンの海岸で撮影されたので、オレゴン州はあの映画でよく知られているんです。スタジオでは少なくとも毎週金曜日の朝はハイキングに行くことにしています。アウトドアを満喫し、自分たちがデザインしている服について説いていることを実践するためにね。目標のひとつは、地元のフッド山に登ることです。数年前にセント・ヘレンズ山に登りましたが、あの山はある程度の体力は必要ですがほとんどの人が登頂可能です。人生や自然を楽しみ、外に出て自分の周りの世界を探検できるような健康状態であり続けたいと思っています。

ゲルト: スポーツオタクですか?
ヌー: いいえ、ちょっと矛盾しているんです。スポーツはそれほど好きではなかったし、学生時代には寒い雨の日にラグビーをしなくてはいけないのが嫌いでした。それよりも、絵を描いたり、デザインしたり、何かを作ったりすることに興味があったんです。以前、 Nike で働いていた時の話です。同僚たちからまず聞かれる質問は 「あなたのスポーツは?何をやっているの?」というもの。それに対して答えを持っていなかった。それよりも、どう自分の体を使うか、自然を楽しむか、ということに興味があるんです。

ゲルト: 好きなサッカーチームは無いということですか?
ヌー: 無いんです。けれども、スポーツには近年ますます顕著になってきているもうひとつの側面があると思う。それは、ウェルビーイング、そして競争という概念にとらわれない、よりパーソナルな方法でのスポーツへの向き合い方です。そのことに気づいている企業は、競争や究極のアスリートとは誰かといった古いパラダイムにとらわれている企業とは対照的に非常にうまくいっています。私がスポーツに興味があるのは、人間の身体とその仕組みに興味があり、人々が機能し、より良く感じるための解決策を見つけることができるからです。ファッションに興味を持つ前は、医学の道に進んで医者になろうと考えていました。解剖学と身体の仕組みにいつも魅了されていたんです。常にアウトドア用品にインスパイアされながら、それをデザインに活かしていたGucciやLouis Vuittonのような環境での仕事において、テクノロジーがアウトドアを中心に展開する源流に実際に近づいたことは、私にとって大きな転機となっています。Nikeを経て、Goldwinでは快適さとプロテクションを高めるためにテクノロジーをどのように活用できるかを考えています。 保温素材や吸汗速乾素材をどう使えばいいのか。アウトドアをもっと楽しむために、より快適さを感じられる適切なギアをどう開発すればいいのか。ファッションでは、ランウェイでどう見えるかが重要なポイントになることが多い。それに対して、Goldwin 0のデザインは実際に機能する必要があります。

ゲルト: Goldwin を知ったきっかけは?
ヌー: 長年、 Vuitton や Nike、 UNIQLO で働き、定期的に日本を訪れてきました。そして、日本の The North FaceがPurple Labelでやっていることを常に見ていました。なぜ、ヨーロッパやアメリカで見つけられるものよりずっと優れているのか?品質がはるかに良く、すべてがもっと考え尽くされていた。何もかもが、一歩先に進んでいるような気がしました。それから数年後にGoldwinを見つけて、日本のThe North Faceとnanamicaの親会社だと知りました。そして、ああ、そういうことか、分かったぞ!と。ここには、最高の技術を駆使し、 “Dedication to detail”という考えのもとに細心の注意を払ってアウトドアのための最高のギアやアパレルを作ることに情熱を注いでいる人たちがいるのだと。なので、Goldwin 0では、そんなGoldwinに何を足していくことができるか、をまず問いかけました。彼らはすでに素晴らしい仕事をしているので、そのような知識、専門的技術、素晴らしいパターン、素晴らしい生地を、ファッション業界で働いてきた経験から得た少し違った自分のレンズを通して、どのように見るか。

ゲルト: Goldwin 0 のジャケットを着てセント・ヘレンズ山に登ることは可能ですか?
ヌー: それが狙いです。必ずしもそのような目的でデザインされたわけではないのですが、Goldwinが適切な生産技術、素材、体温調節機能、そしてその他の必要要素を備えているという事実の副産物であることは確かなんです。

ゲルト: 親にどの子供が1番好きかと聞くようなものですが、新たな Goldwin 0 コレクションの中でお気に入りの1着はありますか?
ヌー: アウターウェアをとても誇りに思っています。私はずっと前からアウターオタクなんです。でも面白いことに、新しいコレクションで気に入っているアイテムのひとつは新作ではなく、フィールドシェルジャケットという名前の前シーズンからの継続なんです。GORE-TEXのレインシェルで、少し長めにカットされ、裾にはドローコードが付いています。昨シーズン時点で、すでに本当に良い生地で素晴らしかった。完璧だと感じていました。Goldwinはそれを本当に高く評価し、さらに良くするために、いくつかの修正と提案をしてくれた。より軽い生地と、ファスナーを取り付ける少し良い方法を見つけたことにより、さらに良くなりました。これはまさに、継続的改善というとても日本的なものです。

ゲルト: 「複雑な構造、シンプルなデザイン」 - Goldwin 0の商品説明に、こんな興味深いフレーズがありました。
ヌー: それは私がよく考えることで、複雑さ vs 単純さ、という考え方です。 Goldwin にはものづくりのノウハウがあり、工場があり、デベロッパーがいるので、私自身のブランドであるgnuhrやVuittonでは決してできなかったことができるんです。専門分野は複雑なことが多く、本当に良いものを作るには、様々な人々、機械、工程が必要です。多くのテック企業がそのような仕事をしているように感じます。 Apple は複雑な部分をできるだけ削ぎ落とし、実にシンプルなパッケージに包んでいる。 Goldwin 0のジャケットを買うと、そういうものが手に入ると思います。多くの複雑な要素がこのジャケットを作るために費やされていますが、私はそれが心地よく快適で、複雑でないことを願っています。複雑に見えるべきでないし、難しそうに見えるべきでもない。

ゲルト: 読書家ですか? 今何を読んでいますか?
ヌー: 毎日の通勤時にオーディオブックを聴いています。今はSF作家のアーシュラ・K・ル=グウィンを。彼女はポートランドに住んでいました。科学の本もたくさん読んだり聞いたりしています。カルロ・ロヴェッリの『時間は存在しない』という時間についての本を読んだばかりで、すべてを理解できたかどうかはわからないけれど、とても興味深かった。私が好きなもう一人の作家、マーティン・エイミスの本の冒頭に素晴らしい言葉があります: 「私は科学についてはよく知らないが、自分の好きなことが何かは知っている。」それが私の科学に対するアプローチなんです。私は常に医学や生物学、自然界に興味があった。専門家ではないけれど、ドキュメンタリーや科学の本が大好きなんです。

ゲルト: 美術館や博物館には行きますか?
ヌー: 自然史博物館が大好きなんだけど、ここポートランドには無いんです。世界で最も好きな場所のひとつは、パリの国立自然史博物館です。古生物学と比較解剖学のギャラリーは素晴らしい。

ゲルト: 5区の公園にある博物館ですね?
ヌー: その通り。骨格標本やさまざまな動物が展示されていて、とても迫力がある。ロンドンの自然史博物館も大好きです。訪れた都市に自然史博物館がある場合には、必ず行くようにしています。

ゲルト: 本、博物館ときて、音楽は好きですか?
ヌー: 音楽は私たちのスタジオの最大の関心事です。常に音楽を聴き、シェアし、語り合っている。若い頃はもっとライブに行っていたんだけど、最近素晴らしいコンサートに行って。あぁ、彼の名前は何だっけ?また思い出すよ。私は音楽とファッションのつながりをとても信じています。直感的に作曲する方法と、服やデザインを組み立てる方法はよく似ています。なぜいい音なのか、なぜうまくいくのか、なぜよく見えるのか、を説明するのは難しい。科学的に合理化することはできない。

ゲルト: 今日は何を聴いていますか?
ヌー: 今日リリースされた Aphex Twin の新しいアルバムを聴きたいと思っています。ライブ録音、アウトテイク、レアなリリースが2時間半に渡って収録されていて。今日スタジオで最初に聴くのはこれになりそうです。ノスタルジックなものかもしれないですね。私の青春時代、 90年代の音楽だから。 先ほども話したコンサートで見たコンポーザーの名前をどうしても思い出したいんだけど。彼は教会で演奏して、素晴らしい光のインスタレーションがあったんです。

ゲルト: 思い出したらメールで送ってくださいね。
ヌー: そうしますね。きっと彼の良さがわかると思う。『The Disintegration Loops』 は彼のアルバムのタイトルなんだけど… 。ウィリアム・バシンスキー、それが彼の名前だ! 彼はテープループを使っていろいろなことをやっていて、とてもエーテル的。彼が80年代に所有していたテープからの楽曲だと思います。彼の音楽は昔から聴いているけど、ライブを見たこともなければ、話を聞いたこともなかった。コンサートでは、長髪、スキニージーンズ、ハイヒールのブーツという年老いたロックスターの典型のような出で立ち登場して、教会でとても繊細でとても優美でこの世のものとは思えないテープループを演奏した。それはスピリチュアルな体験で、そして彼の見た目とサウンドの間には素晴らしい矛盾が存在していたんです。

ゲルト: あなたの略歴を教えてもらえますか?
ヌー: どのくらい短く?

ゲルト: 50 ワードでヌー・アバスを表現する、というのはどうですか?
ヌー: なるほど! ちょっと考えさせてください。イギリス生まれ。両親はイラク出身で、家ではアラビア語を話していた。生活の大半はアラビア文化の中にあった。だから、完全に自分がイギリス人と感じていたという感覚はなくて。それが、イギリスを離れてフランスに、そして今はアメリカに住むのが簡単だった理由のひとつかもしれない。ポートランドが自分のホームだと言えます。ここに住み、ここで家族がいて、ここに息子が生まれ、ここでビジネスをしている。でも、世界中の都市の中で、たぶんパリに1番なじみがあります。目的や機能を持った服、アクティビティやスポーツのための服を作ることを愛し、けれどもスポーツ自体にはそんなに興味はないんです。

ゲルト: 私が見つけたこの魅惑的なウェブサイトonlylight.com とは?
ヌー: よく見つけましたね。今だにこのサイトを見る人がいるのかなってたまに考えることがあるんです。私はちょっとテックオタクで、今から25年近く前の2000年頃にそのドメインを買って、とてもシンプルなコードで自分のウェブサイトを作ったんです。当時はたくさんのイラストや絵を描いていて、それをこのサイトに集め始めた。少なくとも10年間は更新していないと思う。ソーシャルメディアが存在する前の、かつてのネット生活の遺物にいまだにしがみついているのは、私の溜め込み癖のせいかもしれませんね。それは、 (Instagram の) 画像フィードが主流でなかったあの時代の、画像のフィードのようなものだった。

ゲルト: そして、なぜ onlylight という名前に?
ヌー: 私の名前、Nur (ヌー) はアラビア語でlight (光)を意味する。それと、ちょっと言葉遊びをしていて、ドイツ語のNurはonlyという意味なんです。それで、onlylight!それから、英語ではlightは重さや軽さという意味もある。私自身のブランドgnuhrでは、ウルトラライトのバックパッキングに焦点を当てた製品をデザインし、より快適に、より速く、より遠くへ行くにはどうしたらいいかを考えています。

ゲルト: ものを作るとき、常にデザインの重さを量っていますか?例えば、2つのジッパーのどちらかを選ばなくてはならない時、片方のジッパーが12グラムで、もう片方が14グラムだとしたら、12グラムのジッパーを選びますか?
ヌー: 必ず。重さは常に考慮すべき点です。ファッションにおいても、生地を選ぶときに最初に見ることのひとつは重さであり、どんなスワッチにも記載されている。そして私にとってのウルトラライトとは、必ずしも質量や重量といった物理的特性だけでなく、いかにシンプルにするかという考え方でもあります。ウルトラライトハイキングという考え方そのものは、そんなにたくさん持っていく必要がないということです。3枚も着替えを持つことはせず、余分な1食も増やさない。そんな重さを背負わず、文字通り大きな手荷物を持たないことにより、より快適な経験をすることができます。

ゲルト: 素晴らしい。私が好きな最近の休日過ごし方は、携帯電話の充電器と予備のTシャツ1枚と靴下1足だけを入れた小さなバックパックを持って出掛けることです。
ヌー: まさにそれが、私がウルトラライトを愛する理由のひとつです。バックパッキングをするということは、すべてを置き去りにするということ。トレイルでの生活には、すべてを必要最低限に抑えたシンプルさがある。荷物の重さがないから自由を感じるし、いろいろなことを気にしなくていいから精神的な自由もある。日常生活に関して言えば、私はひどい溜め込み屋で、いつか参考資料として必要になると思って何レールもの大量な洋服をもっているし、本もたくさんある。だから、少なくともたまに数日間それらすべてを手放すことは、最高の経験のひとつなんです。

ゲルト: 身軽に生きること、それが理想ですね。
ヌー: 人は 「恐怖のために荷造りする 」と聞いたことがあります。お腹が空くのが怖いから余分に食料を詰め込む。寒さを恐れて服を余分に用意する。でも、それを手放すことができれば、世界はそれほど怖い場所ではないと思うんです。実際、ごくわずかなものがあれば快適にやっていける。それが私たちのスタジオの基本です。私たちは、何を加えることができるかということとは対照的に、いかにして何かを取り除くことができるかということに飛躍的に焦点を絞って仕事をし、生活をシンプルにできる解決策を探しています。

ゲルト: 気をつけてくださいね! デザインを減らしすぎて、最終的にはすべてが消えてしまうかもしれない。
ヌー: そうそう! バックミンスター・フラーはこんなことを言っていました。「最小で最大を成す。最終的に何もなくても何でもできるようになるまで。」 私がとても好きな言葉です。

ゲルト: 素晴らしい。ニューヨークへ旅行したとき、スーツケースが行方不明になり、勉強になる経験をしたんです。もちろん腹立たしかったけれど、持ち物がない方が生活がずっと楽だった。
ヌー: それが大きな矛盾なんです。私は常にバランスを求めているような気がします。 アクティブウェアを作っていますが、スポーツにはあまり興味がない。私は買いだめ好きで真の物質主義者だけれど、シンプルさを求めている。これらの矛盾のすべての中に、とても根源的な人間の経験が存在すると考えています。

NUR ABBAS (ヌー・アバス) l GOLDWIN 0 のデザインディレクター、オレゴン州ポートランド在住
GERT JONKERS (ゲルト・ヨンカーズ) l 雑誌 『FANTASTIC MAN』 編集長